Osamu Sakai (Web site)
Main Projects
(1)クローンヤモリの個性形成
発達にともなう個性の多様化
大胆さと生息微環境の関連
食事制限が駆動する個性形成の仮説検証
(2)環境ストレスとカエルの個性形成
幼少期のストレス曝露による個性の創出と消失
(3)対象動物の個性を考慮した外来種防除
トカゲロボットを利用した誘引トラップの開発
Side projects
(1)爬虫類・両生類の自然史解明
(2)個性研究に関する概念の整理と提唱
(3)ヤモリの大胆さと新奇物への反応の関連
(4)キンギョの個性とペアー意思決定
(5)ヤマカガシ属の頸腺毒の進化

研究1 クローンヤモリの個性形成
氏か育ちか?個性はある程度生まれながらに決まっているが、後天的な経験によっても変化しうる。一般的な生物では遺伝的にも経験的にも異なる個体同士の比較となるので、個性の違いが何に由来するのか特定することが難しい。そこで、自然下に生息するクローンの爬虫類に着目した。オガサワラヤモリ (Lepidodactylus lugubris) は単為生殖というユニークな繁殖特徴を持ち、メスのみで子供を生みだす。遺伝的な個体差を排除できるという特徴は、個性形成における経験要因の影響を抽出するうえで理想的な対象である 。これまで野外と飼育下のクローンヤモリを対象に、集団内に多様性が生じるメカニズムを探求してきた。
発達にともなう個性の多様化 (Sakai 2018. J Ethol)
自然下のクローンヤモリにおいて個性の存在を初めて明らかとした。クローン動物では遺伝的な個体差がほぼ無く、経験の違いが徐々に蓄積されることで多様性を生み出していると予想される。野外個体ではほとんどの幼体は大胆であるが、成体には大胆な個体から臆病な個体までが含まれていた。この発見は、発達過程で臆病な個体が現れることにより集団内に個性が創出されることを示唆するものである。この論文はEditor’s Choice 2018 Articlesに選出された。紹介動画


大胆さと生息微環境の関連 (Sakai 2019. Behav Ecol Sociobiol)
防風林に生息するオガサワラヤモリを対象に、個性と生息環境の関連性を明らかとした。3年間の標識再捕獲における369個体の記録から、各個体は決まった枝から移動せず、定住性が高いことが分かった。また、大胆な個体は林内のどこにでも生息するのに対し、臆病な個体は道側に位置する低い枝にのみ生息していた。人為攪乱を頻繁に経験したヤモリが臆病に変化することが示唆され、定住性の高い動物種の場合、生息環境が個性の形成に大きく影響する可能性を提起した。
食事制限が駆動する個性形成の仮説検証 (Sakai 2020. Anim Behav)
発達を通した個性形成メカニズムを検証し、「成長段階特異的」な影響を考慮した新概念の必要性を提起した 。孵化から性成熟までの15ヵ月間にわたってクローンヤモリへの給餌量を制御して飼育し、状態行動フィードバック仮説の検証を試みた。成長速度と繁殖開始齢に顕著な差がみられたが、給仕量の差は行動形質にはあまり影響せず、成長が早いと大胆で活動的になるという予想は支持されなかった。幼体時の大胆さのみに急激な変化がみられ、徐々に個体差が生じるという従来の仮説を見直し、発達初期に起こる劇的な変化とその後の収束過程を考慮した既存のフレームワークの改良を提案した。


研究2 環境ストレスとカエルの個性形成
自然下において動物は様々な困難や脅威に曝されながら生きている。従来の研究では、環境ストレスが表現形質にもたらす変化が集団の平均値をみて調べられてきた。しかし、ストレス応答の仕方にも個体差がみられ、ストレスへの曝露が集団を構成する個体のバリエーションの程度を変化させることが分かってきた。
両生類はこのような観点の理解において優れた対象動物である。幼生と成体は水域と陸域で多様なストレスに曝され、変態を通して激的にその様相を変化させるからである。本研究ではタイヘイヨウアマガエル(Pseudacris regilla)を対象にストレス曝露による個性形成のダイナミクスを探求してきた。
ストレス曝露による個性の創出と消失 (Sakai et al. in prep)
発生段階初期のオタマジャクシを3つの条件(ストレスなし、捕食者の匂い刺激、高塩分環境)で飼育し、その後、変態前後で大胆さと探索性にみられる一貫した個体差を評価した。幼生期に捕食者刺激を受けると変態を跨いで個性が明瞭になるが、塩分ストレスを受けると個性が不明瞭になることを発見した。捕食者刺激がトリガーとなり個性が形成されるという結果は従来の発見と一致する。しかし、非生物学的な環境ストレスでは真逆の結果が得られるということを初めて見出した。この知見は、幼少期からの持ち越し効果が個性形成に重要な役割を持つことを示唆するものである。


研究3 対象動物の個性を考慮した外来種防除
外来種や害獣などの動物を管理する際、捕獲しにくい個体や忌避剤に耐性を持つ個体への対処が課題となる。その背景にある要因として個性の違いが挙げられ、特に、臆病で警戒心の強い個体をどのように効率的に集団から取り除くのか?というのが核心をなす問いとなる。そこで、日本に移入定着したグリーンアノール(Anolis caloninensis)に着目した。とりわけ、小笠原諸島の在来昆虫相はグリーアノールからの捕食圧により壊滅的な被害を受けており、本種を積極的に駆除する方法の開発が急務である。そこでまず、本種の防除ツールを開発し、その有効性を個体レベルで評価する。そして標的の異なる複数の手法を併用することで、対象動物の種内多様性を考慮した外来動物管理の提案と実践を目指す。
忌避音響を利用した撃退 (Sakai & Iwai 2024. Ecol Res)
機械音と生物音を組み合わせることで、グリーアノールを音源付近から退けることに成功した。実験室内に音量勾配のある空間を用意し、グリーンアノールがスピーカーの近くを避けるかどうかを評価した。約80%の場合でアノールの音源への接近を阻止でき、特に混合音(機械音と生物音)は中距離でも撃退効果が見られた。しかし、一定数の個体には忌避音は有効ではなく、この手法が利かない個体への代替手法の必要性も浮き彫りとなった。本成果は、様々な種類の音響を組み合わせることで、有効範囲の改善と慣れの防止に役立つ可能性を示唆するものである。このシステムを利用し、グリーアノールが近寄りにくいスポットを作り出し、在来の昆虫相が避難する場所の提供に貢献することを期待したい。

ロボットを利用した誘引 (Sakai, Ongoing)
グリーンアノールは視覚ディスプレイ(頭を激しく振り、咽のヒダを展開)を披露し、周囲のオスやメスにその存在をアピールする。この繁殖行動を利用した誘引トラップの開発を目的とし、本種のディスプレイを模倣したロボットの開発と捕獲機構の構築を進めている。侵入してきたオスを排除する傾向や交尾への積極性には個体差があると想定されるため、このシステムで誘引されやすい個体とされにくい個体を明らかにすることを目的としている。



Side projects
準備中...